青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

『本屋図鑑』

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小さい頃、歯医者に行くのを嫌がって、よくだだをこねた。そんな時、帰りに本を買ってあげるからという条件つきで歯医者に行った記憶がある。歯医者のある通りから一本隣の古いアーケード街にある本屋で買ってもらったのは漫画の単行本で、なぜか力士の伝記が多かった。大相撲の人気が高かったのだろう。

全国にある町の本屋さんを鉛筆画のイラストつきで紹介している、この本を読んでいると、そんな昔の出来事を思い出した。沖縄から北海道まで足を伸ばし、一軒一軒ちゃんと取材して書かれている。店主の話には、店の規模や歴史はちがっても、地域になければならない店としての自負心が滲み出ていて感銘を受ける。

町の本屋と言っても、大型店もあれば、小規模店もある。歴史のある店もあれば、つい最近できた店もある。前々からあった店が閉店するというので、後を引き受けた店もある。一県にひとつは紹介されているので、自分の住む県ではどの店が出ているのか読んでみたくなる。

人文書を多く揃えている店、コミックの品揃えが充実している店、商店街にある店、帰り道にある店など、力を入れている棚の紹介に限らず、ロケーションも含めどんなところにある店なのか、という視点でも選ばれているので、意外な場所に建つ本屋さんを発見する楽しみもある。

丁寧なイラストは面陳(この本ではじめて知った専門用語で、表紙を見せて陳列する並べ方)や背表紙の書名まできっちり書かれているので、どんな棚になっているのか一目で分かる。そんな中では熊本の蔦谷書店熊本三年坂の海外文学棚が垂涎の的。自分の書斎に並ぶ本が何冊もあり、並べておきたい本がびっしり詰まっていた。ああ、行ってみたい。でも熊本は遠いなあ。もう一軒、埼玉県行田市にある忍(おし)書房。店主の特選コーナーが設けられていて、文庫本には風太郎や内田百閒、単行本のコーナーには『プルーストとイカ』やブルース・チャトウィンの『ソングライン』が並ぶという。他にはどんな本が並んでいるのか知りたくなるセレクトではないか。店主は平日は東京で会社勤めをし、店に立つのは土日・祝日のみというから休みなしである。本が好きでなければ、とってもやっていけない。

学生時代に通った京都の三月書房も、温泉に行くときいつも前を通る新宮の荒尾成文堂も選ばれている。荒尾成文堂は、中上健次が高校生時代、つけで本を買っていたという店だ。今度通りかかったら車を停めて中を覗いてみよう。

本屋の世界も大型店の出店で、名の知られた地方の本屋が何軒も閉店したという。小さい頃通った店も一時は郊外に進出したものの、そこは今ではカフェに代わっている。この間、散歩していたら、以前の店舗近くのショッピングモール内に同じ店があった。狭いながらも人文書や文芸の棚にその店らしさが残っていた。ネット書店を利用することが多くなったが、たまには町の本屋にも足を運んでみようと思った。