青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

「入院」

 

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病院から帰ってきてから、どうも食欲がない。いつもなら時間はかかっても最後には食べきるカリカリに、鼻を寄せるだけでそっぽを向いてしまう。トイレも小はするが大が出ない。便秘を心配した妻が、ネットで調べ、サツマイモを潰したのや無糖のヨーグルトを口にもっていくが、ひとなめして口を閉じてしまう。おなかのところをのの字を書くようにさすっても便が出ないので、さすがにお手上げである。

翌日、病院に連れて行った。「ニコちゃん、また皮膚の調子悪いんですか?」と、顔なじみの看護師さんが明るく訊いてくれる。もう名前も覚えてもらったようだ。「いえ、食欲がなく、便秘が続いているので」と、妻。いつもとはちがう病室で問診を受ける。先生は別の患者さんに手がかかっているそうでなかなか現れない。ニコは少し震えているようで、妻が抱っこすると、ふだんなら少し抵抗するのだが、べったりと体を預けてくる。

ようやく顔を出した先生は、問診票を片手に怪訝な顔だ。どうも原因が分からないらしい。ニコの上まぶたを押さえ白目の部分を見て、「これは、黄疸じゃないですか。おしっこは黄色くなかったですか?」と、訊いた。猫砂はヒノキのチップを固めたもので、色はもともと薄茶色をしている。おしっこをしたところは少し色が濃くなるが、色の種類までは分からない。分かりません、と答えると血液検査をさせてください、とのこと。食欲のないのは便秘のせいだと簡単に考えていたが、どうやら素人考えだったらしい。検査結果が出るまでしばらく待合室で待った。

看護師さんが、「先生のお話があるのでニコちゃんを預かります」というので、キャリーごと預ける。なにやらいやな予感がしてきた。先生の話をまとめると、肝臓の数値が異常に高くなっている。いろいろな可能性が考えられるが、一番考えられるのは、真菌治療のために投与した薬が過剰な負担を与えたようだ。今まで自分は経験がないが、長毛種の猫にはあると聞く。ついては、すでに治療を始めているが、点滴と抗生物質で肝臓の数値を平常値に戻したい、とのことであった。

餌に混ぜた薬を、ニコは賢く食べていた。まず、二週間、さらに「とどめ」だと、もう二週間分。さすがに本能が働いたのだろう。もうこれ以上は無理だ、と。かわいそうに、言葉でしゃべれないから、出された餌を食べないことで我が身を守ったのだろう。もっと、早く気づいてやればよかった。自分が医者からもらった薬はなくなるまできちんと飲む性格なので、ニコにもそうさせた。ボツボツが消えた時点で、やめておけばよかったのだ。権威に弱いのは致命的だ。

レントゲンも見せてもらったが、便秘のほうは心配なさそうだ。肝臓の大きさも問題はない。ケージの中でエリザベスをつけたニコは目を閉じて、さすがにぐったりしていた。入院中の見舞いは、家に帰れると思わせ、かえってかわいそうなのでひかえたほうがいい、といわれた。空っぽのキャリーだけ下げて家に帰ってきた。あれから三日たつ。病院からはまだ連絡はない。