青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2010-01-01から1年間の記事一覧

『マイ・バック・ページ』−ある60年代の物語 川本三郎

おや、と思った。何だかいつもの川本三郎と感じがちがう。文章も生硬で余裕が感じられない。それに、60年代をテーマに謳っているのに出てくる話が暗いことばかりじゃないか。死者についての話も多い。それに何より「週刊朝日」や「朝日ジャーナル」記者と…

『話の終わり』 リディア・デイヴィス

作者自らが語るところによれば、この小説のテーマは「いなくなった男の話」だそうだ。主人公の「私」は、西海岸の町に住み、翻訳業で何とか食べている女性。巻末の著者略歴によれば、作者本人もフランス文学の翻訳者として知られる。作者自身と思われる「私…

『文豪の食卓』

グルメと言うにはほど遠いが、美味い物を食べるのはきらいな方ではない。どうせ食べるなら美味いにこしたことはないからだが、味覚というのは人それぞれで、あの店が美味いと聞いて訪ね、がっかりさせられることも多い。その点、食べものについて書かれた文…

バウドリーノ

『薔薇の名前』で一躍有名になったウンベルト・エーコの最新作。今回も舞台は同じ中世だが、異端審問最中の僧院に起きる連続殺人事件を描いた『薔薇の名前』の雰囲気を期待して読むと見事に裏切られる。神聖ローマ帝国とビザンツの両帝国を股にかけ、生まれ…

『逆光』トマス・ピンチョン

前作『メイスン&ディクスン』の刊行から九年後になる2006年に発表された。原題は“Against the Day”。「the Day」には、聖書の「裁きの日」の意味が付随する。それが、何故「逆光」という邦題になるかと言えば、dayをday(light)の意味に取る用法があるか…

大蛇粠

この前行って味をしめた大台ヶ原へ、今回は、息子夫婦と。 心配していた天気もすっかり晴れて、秋晴れの高速道路を直走る。ここまではよかった。大台で高速を下り、ログハウスのある中小屋を過ぎ、湯谷峠を越えるあたりで葵ちゃんが、車酔いに。何度も同乗し…

金木犀

秋らしい日が続いたので、暑い間はやめておいた自転車通勤に切り替えた。 健康によく、経済的でもあり、何より小さい町では使いやすい自転車だが、今年の夏の暑さにはほとほとまいった。勤務先まで自転車のペダルを漕いでいったら、汗だくでそのままではとて…

『愛書家の死』ジョン・ダニング

新聞の片隅に紹介されていた『死の蔵書』という題名に惹かれ、同じ作者の新作を手にとった。柳の下の二匹目の泥鰌をねらったのか、前作とよく似た邦題になっている。原題は“The Bookwoman's Last Fling”「fling」は、「向こう見ずな挙動、浮気、憤激」を表す…

蓮實重彦著『随想』

『随想』は、蓮實重彦の最も新しい単行本。雑誌「新潮」に連載した15本のエッセイを集めたものである。律儀なことに一章が四百字詰め原稿用紙28枚分。小見出しなしの一行あけ三部構成で、各章の冒頭は日時が記載されるという極めて厳密な形式で構成され…

階段を駆け上がる

片岡義男の最新短編集である。にもかかわらず、どこかで読んでような気がするのはどうしてかと、自分の過去の書評を検索してみた。『白い指先の小説』という、やはり片岡の短編集があるが、その本の書評に、今回も自分ならこう書くだろうなという評があった…

劇的な人生こそ真実

萩原朔美という名前をはじめて目にしたとき、なんというたいそれたことするものだ、と正直驚いた。萩原朔太郎といえば口語自由詩の完成者としてあまりにも有名。その大詩人から三字を勝手に拝借するなんて、あまりにも畏れ多いと感じたのだ。高校の教科書に…

近江商人の町

滋賀県に行って来ました。 出かける前、どこに行くか決められず、とりあえず温泉セットだけ用意して高速に乗った。新名神方面でどこか美味しい物が食べられて温泉のある場所、というところまでは決まった。 走り出してしばらくすると、前に一度行ったことの…

メイスン&ディクスン

メイスン&ディクスン。脚韻を踏んで調子のいい響き。ロミオ&ジュリエット、ジキル&ハイド、フラニー&ゾーイ。二人の名前の組み合わせを表題にした作品は数多くある。丸谷才一は『文学のレッスン』の中で、作品を評価する点における登場人物の魅力をもっ…

大台ヶ原

大台ヶ原に行って来ました。三重県と奈良県の県境に位置する大台ヶ原山は日本百名山の一つ。山頂近くまでドライブウェイが通っているので、初心者にはうれしい山です。登山道もハイキングコースとして整備されているので、駐車場から約40分で最高峰の日出…

神言会多治見修道院

昨日の続きです。この写真がその修道院前景。 土岐市側から入るときには、ちょっとした峠を越えるので右下方に修道院が俯瞰できます。 ロの字型になった建築の全景は壮観のひと言。日本ではあまり見たことがない偉容です。あ、そうそう。書き忘れましたが、…

日本で一番暑い町

猛暑の日本列島。そんな中、日本で一番暑いといわれている岐阜県の多治見市に行ってきました。何を酔狂なと思われるかもしれません。実は、そこにちょっと気になる町を発見したからです。その名も本町オリベストリート。ドライブルートはこの前行った麦草峠…

虫の音

昨夜までは気づかなかったが、今夜は虫の音が聞こえる。立秋はとうに過ぎたが、残暑は厳しく、まだまだ夏が続くものだと思っていたのに、自然の方はそんなことは考えていないようだ。 玄関に置いた水甕の中で、またメダカが生まれた。小さいのが四匹ばかり数…

オン・ザ・ロード

ブックエンドに並べてあった本を全部読み終えたので、図書館に出向いた。予約してあった本がとどいたという連絡が留守電に入っていたのだ。ジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』。そうビートニク世代の聖書『路上』だ。池澤夏樹編の世界文学全集では…

山で見た夢

著者は、雑誌『山と渓谷』誌の元編集長。若いころは本格的な登山にいそしんだものだが最近は思うところあって沢登りや渓谷に魅力を感じるようになってきている。一つには、登山をめぐる事情の変化があるらしい。初期のアルピニズムに傾斜した「初登」「単独…

湯泉地温泉

奈良県にある湯泉地温泉に行って来ました。あまりに暑い日が続き、外出したら熱中症になるんじゃないかという心配からずっと遠出を避けてきたんだけれど、やはりたまにはどこかに出かけたくて。天気予報じゃ、この日は一日中晴れマーク。こちらは朝からすっ…

ハワーズ・エンド

少し前に文庫で出た吉田健一の『文学の楽しみ』を読み返していたら、フォースターの『ハワーズ・エンド』をまだ読んでいなかったのを思い出した。この人の文章には中毒性があるらしく一度はまると他の人の文章ではものたりなくなるのだ。そういえば、イーヴ…

麦草峠

三連休の最終日。夏のお約束となった感がある麦草峠に行って来た。八ヶ岳を望むこの峠は標高二千メートルをこえる高さに位置し、鬱蒼とした原生林の中に白駒池という神秘的な池を隠している。前回は夫婦二人だけだったが、今回は長男夫妻も一緒である。往復…

シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々

カナダで新聞記者をしていた「僕」は、筆禍に遭い、命の危険を感じ、とるものもとりあえずパリに逃げた。たくわえも尽き、冬のパリを彷徨ううち雨に降られ、雨宿りにとある書店に飛びこんだ。ノートルダムにあるその書店こそシェイクスピア・アンド・カンパ…

絆と権力

ガルシア=マルケスとフィデル・カストロ。コロンビア出身のノーベル賞作家とキューバの最高指導者。それぞれの分野でラテンアメリカを代表する二人だが、この二人の間に特別な関係があることを、恥ずかしながらこの本を読むまで知らなかった。言われてみれ…

今日からはじめました。

以前に使っていたところが気に入っていたのですが、突然広告が入りだしたので、引っ越しを考えています。使い勝手がよければ、そのまま引っ越そうと思いますが…。