青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『横しぐれ』丸谷才一

「わたし」は、中世和歌や連歌を専門とする国文学研究室の助手。父の通夜の席で、父の友人であった国文学の黒川先生に思い出話を聞く。実は、戦争が激しくなるちょっと前、黒川先生は父と連れ立って郷里の松山を訪れたことがある。そのとき、道後温泉近くの…

『笹まくら』 丸谷才一

プロ野球の監督が選手にくらわすビンタに旧軍の悪弊を見て嫌悪の情をもらす骨がらみの軍隊嫌いである丸谷の根っこがあらわに出た代表作の一つ。 「オリンピック道路」という言葉が文中にあるから舞台は1964年ごろの東京。「文学部の全学生に神道概論が必須科…

『女ざかり』丸谷才一

丸谷才一が亡くなった。ジェイムズ・ジョイスの訳者として、博識を洒落のめしたスタイルで軽妙に綴った数々のエッセイの書き手として、また日本における書評文化の担い手として、そして何より、『女ざかり』その他の長編小説の作者として八面六臂の活躍ぶり…

『螺旋』サンティアーゴ・パハーレス

マドリッドにある出版社の編集者ダヴィッドは、社長から一つの依頼を受ける。それは、ある人気作家を探し当て次回作の原稿をとってくることだった。ただ、そこには問題があった。その作家トマス・マウドは、原稿を郵便で送りつけてくるだけで、誰も顔を見た…

『天使のゲーム』上・下 カルロス・ルイス・サフォン

一九一七年十二月、バルセロナの新聞社で雑用係をしていた十七歳のダヴィッドは短編小説を書く機会を得た。作品は好評でシリーズ化され、一年後ダヴィッドは新興出版社と専属契約を結び独立。それを機に以前から気になっていた市中に異容を誇る「塔の館」に…