青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2014-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『コレクター蒐集』ティボール・フィッシャー

書き出しがいささか面妖だ。「わたしは、この星に余るほど蒐集してきた。/お次の所有者…ご老体、肥満体(略)目下の保管者…競売人」。「わたし」とはいったい誰で、何を蒐集してきたのだろう。所有者?保管人?謎かけは作者の専売特許だ。あっさり種明かし…

『部屋の向こうまでの長い旅』ティボール・フィッシャー

いやいや引き受けたコンピューターグラフィックスの仕事で思わぬ大金を手に入れたオーシャンは、ロンドンの外れに上下二階分のフラットを手に入れると、そこに引きこもった。この時代、金さえあれば、部屋から一歩も出ずに生きていける。糞みたいなロンドン…

『ジョン・ランプリエールの辞書』ローレンス・ノーフォーク

ロンドンの地底に延びる地下通路、ヴォーカンソンの自動人形、人知れず地中海を航行する沈んだはずの三本マストの帆船。トマス・ピンチョンを思わせる道具立てに、エーコばりのギリシア神話に関する薀蓄を満載した歴史バロック・ミステリという触れ込みに、…

『かつては岸』ポール・ユーン

八篇の短篇を収める短篇集。全篇の舞台となるのが、韓国有数のリゾート地済州島を思わせる「ソラ」という名の島。時代は、日本の支配下にあった第二次世界大戦当時から、観光業で栄える現在に至る期間を扱っている。 著者は韓国系アメリカ人。1980年、ニュー…

『失われた足跡』アレホ・カルペンティエル

実際に車を走らせるときは、カーナビに頼ってばかりいるくせに、海外小説を読んでいて気になる地名が出てくると、わざわざ地図を開いて確かめたくなる。作中の地名は架空のものだが、手記の最後にカラカスと記されているからには、ベネズエラ。オリノコ河を…

『読書礼賛』アルベルト・マングェル

著者マングェルは、ホルヘ・ルイス・ボルヘスやアドルフォ・ビオイ= カサーレス等ラ・プラタ幻想派のすぐ傍にいて、盲目のボルヘスに本を読み聞かせていた男。いわばバベルの図書館の音声ガイドである。ペロン政権下でイスラエル駐在アルゼンチン大使の息子…

『岸辺なき流れ 下』ハンス・へニー・ヤーン

圧倒的な読み応え。長広舌も、果てしなく続く議論も、挿入される逸話(アネクドート)も、小説的強度はドストエフスキーのそれに似るといっても過言ではない。内容以前に、読者にぐいぐい迫ってくる「読ませる力」が並大抵ではない。とにかく最後まで読み終…

『岸辺なき流れ上』ハンス・へニー・ヤーン

国書刊行会の宣伝文句が凄い。 「ジョイスの『ユリシーズ』やプルーストの『失われた時を求めて』と並び称される二十世紀文学の大金字塔が、半世紀の歳月をかけて遂に翻訳なる!!カフカ、ムージル、ブロッホと並ぶドイツが生んだ巨匠ヤーンの最大の問題作。…