青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2016-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『つつましい英雄』 マリオ・バルガス=リョサ

ノーベル賞受賞後に初めて書かれた小説だという。なんとなくのほほんとした気分が漂うのは、そのせいか。かつてのバルガス=リョサらしい緊張感が影をひそめ、よくできた小説世界のなかにおさまっている。同時進行する、場所も人物も異なる二つの物語が、章…

『悲しみのイレーヌ』 ピエール・ルメートル

『天国でまた会おう』のときにも、そう感じたのだけれど、ルメートルという作家は気質的に残酷な話が好きなのかな、と思ってしまう。何人かのレビューに、『その女アレックス』より先に、こちらを読むべき、とあったので、その言に従ったのだが、タイトルが…

『奇跡なす者たち』 ジャック・ヴァンス

SFの持つ面白さにもいろいろあるが、一つには時空間や次元を超えた世界や文明を持ち出すことによって、今ある世界や文明に対する批判が容易にできることがある。しかし、想像力にも限界があって、批評する側が当然視してしまっている文化のようなものは案…

『はるかな星』 ロベルト・ボラーニョ

前書きにもあるように、これはボラーニョの初期の作品『アメリカ大陸のナチ文学』の最終章に出てくる、ラミレス=ホフマン中尉の話を大幅に改稿し、一篇の小説としたものである。その話を「僕」に教えてくれたのは、アルトゥーロ・B。ボラーニョの他の作品…

『未成年』 イアン・マキューアン

「公私混同」という言葉がある。公の仕事に、私的な事情を持ち込むことを指す。ふつうは望ましくないことと考えられている。ふりかえって今の我が国の政治家の言動をみていると、私的心情や私利を隠しもせずに前に立てていっこうに恥じるところもないようだ…

「やっとのことで薬から解放されました」

去年の暮れ、病院に行ったとき、検査結果を見ながら「これで安心して年を越せそうですね」と、笑顔で話す医師の声にようやく安堵した。それでも、慎重な医師は、もう二週間分の薬を処方し、これが切れたころにもう一度検査をして、その結果を見て投薬をやめ…

『美について』 ゼイディー・スミス

階級や家風のちがう二つの家が結婚問題をきっかけとして交際が始まることによって起こる騒動の顛末を描く、E・M・フォースター作『ハワーズ・エンド』を下敷きに、現代アメリカを舞台に描いた喜劇風味の風俗小説である。フォースターの代表作をいじるなど…