青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2016-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『ロスト・シティ・レディオ』 ダニエル・アラルコン

舞台はペルーの首都リマを思わせる架空の都市。反政府勢力との戦争が終ってから十年、首都は再建下にある。たった一つ残ったラジオ局のアナウンサー、ノーマは、政府による検閲済みのニュースを読むほかに日曜深夜の人気番組のパーソナリティーをつとめてい…

『ジャック・リッチーのびっくりパレード』 ジャック・リッチー

1950年代、雑誌『マンハント』や『ヒッチコックマガジン』で活躍したジャック・リッチーの短篇を、60年、70年、80年代と年代別に四部に分けて収録した短篇集。全二十五篇が本邦初訳というのだが、えっ、これが今まで訳されてなかったの、といいたいほどの完…

『世界文学論集』 J・M・クッツェー

題名に引かれて読んでみたのだが、特に「世界文学」を論じた本ではない。ノーベル賞作家J・M・クッツェーの文学評論を集めたもの。作家になる前はベケット論で博士号を取得した研究者であり、大学教授でもあった。それだけに評論とはいうものの、冒頭に置か…

『B面昭和史1926-1945』 半藤一利

一昔前のドーナツ盤レコードでは、裏表に一曲ずつ録音されるのだが、力を入れて売りたい曲の入った面をA面といった。それに対して、あまり売ることを期待していない方をB面といった。もっとも、予想に反してB面扱いされた曲の方が人気が出るということもあっ…

『コーヒーにドーナツ盤、黒いニットのタイ。』 片岡義男

洒落た本だ。各章のタイトルが色刷りで、文中に登場している音楽のLPやドーナツ盤のジャケット写真がフルカラーで紹介されている。表紙は濃いピンクの地に、モノクロームでタイトルにある、コーヒーにドーナツ盤、黒いニットのタイが俯瞰の視点で描かれてい…

『プラハの墓地』 ウンベルト・エーコ

つい先ごろ亡くなったウンベルト・エーコの最新長篇小説。その素材となっているのは、反ユダヤ主義のために書かれた偽書として悪名の高い『シオン賢者の議定書』である。その成立過程が明らかにされてからもユダヤ陰謀説を裏付けるものとして、反ユダヤ主義…

『古書奇譚』 チャーリー・ラヴェット

解説では本書をビブリオ・ミステリとして紹介しているが、「ビブリオ」については問題はないが、これを「ミステリ」と呼ぶのはどうだろうか。もっとも、解説の中でも触れられているように、ビブリオ・ミステリには定義があるらしく、それによると、本に関す…

『地図と領土』 ミシェル・ウエルベック

『素粒子』を引っさげて颯爽と登場してきたとき、評判につられて読んでみたが、セックスを前面に出した作風になじめないものを感じ、本作が邦訳されたのは知ってはいたが読まずにすませた。ところが、先ごろの『服従』の評判を聞きつけ手にとってみると、そ…

『道化と王』 ローズ・トレメイン

クロムウェルの死によって清教徒革命が潰え、1660年にはチャールズ二世による王政復古が始まる。ピューリタンの清貧と禁欲に倦んだ宮廷の人々は、豪奢な衣装や宝飾品を身に纏い、頭には鬘、その上に髪粉をふりかけ、男も薄化粧してハイヒールを履き、着飾っ…

『アーサーとジョージ』 ジュリアン・バーンズ

シンプルなタイトルが示しているとおり、英国小説ならではの評伝を踏まえたもの。丸谷才一氏に寄れば、何故か英国人という人種は、伝記の類を読むことを好むらしい。アーサーとジョージという二人の人物の少年時代からアーサーの死までを伝記風に追ったもの…