青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2019-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『ブルーバード、ブルーバード』アッティカ・ロック

輸入盤で手に入れたミシシッピ・ジョン・ハートのレコードを擦り切れるまで聴いてフィンガー・ピッキングをコピーしていた頃を思い出した。『ブルーバード、ブルーバード』というタイトルは、ブルースの名曲から採られている。事実、文中にはライトニン・ホ…

『橋の上の天使』ジョン・チーヴァー

村上春樹が新しく訳したジョン・チーヴァーの『巨大なラジオ/泳ぐ人』がよかったので、「訳者あとがき」の中で紹介されていた川本三郎訳の『橋の上の天使』を探してきた。村上訳と、どこがどうちがうとはいえないのだが、いかにも川本三郎らしい文章で語ら…

『何があってもおかしくない』エリザベス・ストラウト

しっかり二度読み返した。とはいえ難しい話ではない。各篇に一人の話者がいて、ほとんどモノローグで、自分とそのすぐ近くにいる人々について語る、ただそれだけの話だ。特に何があるというわけでもない。貧しい暮らしを送ってきた中西部、イリノイの田舎町…

『ライオンを殺せ』ホルヘ・イバルグエンゴイティア

この国は今や独裁国家である。ちょっと前まではラテン・アメリカ文学によく登場する独裁者小説を面白がって読んでいたけれど、今では面白がってなどいられない。何もちがわないからだ。日本は民主主義国家で、人権が保障されている先進諸国の仲間入りを果た…

『鐘は歌う』アンナ・スメイル

旅の土産にその街のランドマークになる建築をかたどった小さなモニュメントを買って帰ることにしている。ロンドンで買ったそれはロンドン塔をかたどったもので、ビーフイーターや砲門に混じって、ちゃんと大鴉(レイヴン)もいた。言い伝えには「レイヴンが…

『巨大なラジオ/泳ぐ人』ジョン・チーヴァー

ジョン・チーヴァーの作品は読んだことがなかったが『泳ぐ人』というタイトルには見覚えがあった。バート・ランカスター主演の映画ポスターを見た記憶があるのだ。1968年の映画だ。たしか、次々と他人のプールを泳いでいく話だった。奇妙な話だという印…

『自転車泥棒』呉明益

作家自身を思わせる男が台湾の中華商場界隈に生きる日常を描くリアリズム部分と、訳者が「三丁目のマジック・リアリズム」と呼んだ非日常的で不思議な出来事が起きる物語部分とが違和感なく融けあって一つの小説世界を作っている点が呉明益という作家の特長…