青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2019-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『みかんとひよどり』近藤史恵

陽のあたる縁側に、何度綿を打ち直してもすぐにぺたんとなってしまう縞木綿の座布団を敷いて、その上に座る一人の老女。庭の奥には亡夫が丹精した蜜柑の木に木守めいて残る黄金色の果実に一羽の鵯がきて止まり、さかんに実をついばんでいる。手にした湯飲み…

『ハバナ零年』カルラ・スアレス

電話を発明したのは誰か、ときかれたら、たとえあなたが図書館で『発明発見物語』を読んでいてもいなくてもグラハム・ベル、と答えられる。「電話のベル」と覚えやすいからだ。ところが実際はそうではないらしい。イタリア人のアントニオ・メウッチなる人物…

『ヒュプネロートマキア・ポリフィリ』フランチェスコ・コロンナ

ハビエル・アスペイティア作『ヴェネツィアの出版人』で小説の鍵を握る出版物として出てくる『ポリフィロの狂恋夢』。澁澤龍彦訳では『ポリフィルス狂恋夢』の初の日本語全訳となるのが、この『ヒュプネロートマキア・ポリフィリ』である。本についての詳し…

『JR』ウィリアム・ギャディス

机の上に両足を上げ、椅子の背をいっぱいに倒し、太腿のあたりで本を開いて読んだ。手許にある書見台では厚すぎてページ押さえがきかないのだ。画像では実際の量感がつかみにくかろうが、菊版二段組940ページ、厚さは表紙部分を別にしても約5センチある…