青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2015-06-01から1ヶ月間の記事一覧

『ウィダーの副王』 ブルース・チャトウィン

かつて『ウィダの総督』というタイトルで訳されていたブルース・チャトウィンの数少ないフィクションの新訳である。サザビーズでも指折りの目利きとして知られながら、世界各地を旅して歩き、現地での見聞や蒐集した資料を駆使して、それまで誰も試みたこと…

『煙の樹』 デニス・ジョンソン

主人公の一人スキップことCIAのウィリアム・サンズがなかなかやってこない指令を待ちながら、潜伏先のベトナムのヴィラで読んでいるのが、シオランとアルトーというのが、スパイ活劇風小説におけるいいスパイスになっている。二段組で600ページをこえるボ…

『中上健次』(池澤夏樹=個人編集日本文学全集23)

全集で難しいのは数多ある代表作の中から何を選ぶかということだろう。中上といえばよく引き合いに出されるのがアメリカ南部にある架空の地ヨクナパトーファ郡に起きた多くの人々と出来事を描いたウィリアム・フォークナーのヨクナパトーファ・サーガだが、…

『ジーン・ウルフの記念日の本』 ジーン・ウルフ

原題は“ Gene Wolfe’s Book of Days ” 。この「ブック・オブ・デイズ」。ここでは「記念日の本」という訳になっているが、一年間365日の一日一日について、「今日は何々の日」ということを解説した本のことである。ジーン・ウルフがその初期短篇の中から、あ…

『スウェーデンの騎士』 レオ・ペルッツ

1701年冬、シレジアの雪原を二人の男が追手を恐れながら歩いていた。軍を脱走しスウェーデン王の許へ急ぐ青年貴族クリスティアンと、絞首台を辛くも逃れた市場泥棒だ。身を隠すため入った粉挽き場にあった料理を勝手に食べた二人は、ちょうど来合わせた粉屋…

『吉田健一』(池澤夏樹=個人編集 日本文学全集20)

あるとき朔太郎を読んでいて、文学とはまず第一に批評である、と書かれていて驚いたことがある。それまで文学といえば真っ先に思い浮かべるのは小説だったから、なぜ批評がその上に位置するのだ、と疑問に思ったものだ。当時、批評とは「他人の書いたものを…