青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2017-11-01から1ヶ月間の記事一覧

『光の犬』松家仁之

北海道の東部、サロマ湖や網走で知られる道東の小さな町、枝留(えだる)が舞台。そこに暮らす添島家三代の年代記である。その中には共に暮らす北海道犬も含まれる。ただ、犬の方は血筋は一つではない。一族が北海道に渡ったのは関東大震災に見舞われた夫婦…

『密告者』ファン・ガブリエル・バスケス

三年前から音信のなかった父から突然電話がかかってきた。心臓の具合が悪く、手術をするという。急いで病院に駆けつけた息子に父は詫びた。事の起こりは、三年前に父のしたことだ。ガブリエルと同じ名前の父は最高裁で雄弁術を講義するコロンビアの名士であ…

『アーダ』上・下 ウラジーミル・ナボコフ

<上・下巻併せて> 舐めるようにしゃぶりつくすように読んだ。それでも、作者がこれでもか、というくらい用意したお楽しみや仕掛けの万分の一も見つけてはいないだろう。それでは楽しめないではないか、と思うかもしれない。ちがうのだ。一度読めばそれで二…

『転生の魔』笠井 潔

おや、と思って書棚から小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』を取り出して、奥付を調べてみた。もちろん最新版の方ではない。桃源社版だ。昭和四十六年四月刊ということは事件が起きた前年だ。同シリーズの古本は函入だったが、手に入れたのはカバー装だった。作…