青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

『カーペンターズ・ゴシック』ウィリアム・ギャディス

二〇一九年に日本翻訳大賞を受賞した『JR』は、ウィリアム・ギャディスの第二作。本書は『JR』に次ぐ第三作である。国書刊行会から新刊が出たばかりだが、こちらは二〇〇〇年に本の友社から出されたもので、訳者による記念すべき最初の小説の翻訳である。『J…

『シルトの岸辺』ジュリアン・グラック

皆川博子著『辺境図書館』で興味を持ち、読んでみた。忽ち後悔した。なぜもっと早く読もうとしなかったのか、と。第二次世界大戦が終わって間もない頃に書かれた小説でありながら、まったく古さを感じさせない。原作がそれだけ優れているのだろうが、安藤元…

『パリンプセスト』キャサリン・M・ヴァレンテ

「訳者あとがき」も「解説」もないのは原作者の意図だろうか。冒頭から、いきなり隷書体めいたフォントで「十六番通りと神聖文字通りの角で、ひとつの工場が歌い、溜息をつく」と書き出されたら、慣れない読者は本を投げ出さないだろうか。ここはひとまずざ…