青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2019-11-01から1ヶ月間の記事一覧

『オーバーストーリー』リチャード・パワーズ

まず、ジャケットが出色。巨木の根元に陽が指している写真の上にゴールドで大きく書かれた原語のタイトルがまるで洋書のよう。角度を変えるとタイトル文字だけが浮かび上がる。最近目にした本の中では最高の出来である。表紙、背、裏表紙を広げるとカリフォ…

『昏き目の暗殺者』マーガレット・アトウッド

『昏き目の暗殺者』という表題は、作中に登場する二十五歳で夭折したローラ・チェイスの死後出版による小説のタイトルである。小説の中で売れない物書きの男が女にお話をせがまれて頭の中の小説を話して聞かせる。ウィアード・テイルズのような、扇情的な表…

『戦下の淡き光』マイケル・オンダーチェ

大空襲の傷痕が残る第二次世界大戦直後のロンドンを舞台に、秘密を背負った人々の、誰にも知られず、勝利しても栄誉を与えられない非情な闘いを描く。二部構成で、第一部は十四歳の少年の視点で終戦直後の無秩序で無軌道な裏世界での活躍を描いている。第二…

『メインテーマは殺人』アンソニー・ホロヴィッツ

斬新な手法で読者をあっと言わせた『カササギ殺人事件』のアンソニー・ホロヴィッツが、今度は正攻法で読者に挑む、フェアな叙述による謎解き本格探偵小説。しかし、そこはホロヴィッツ。大胆な仕掛けがある。なんとホロヴィッツ自身がワトソン役となって作…

『タタール人の砂漠』ディーノ・ブッツァーティ

長い間、小競り合いと呼べるほどの戦闘すらなかった隣国と境を接する辺境の砦に新任の将校が赴任する。時を同じくし、今まで微妙な均衡の上に成り立っていた両国間の戦争と平和のバランスにかすかな亀裂が生じ、それがやがて運命的な悲劇を招き寄せることに…