青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2021-09-01から1ヶ月間の記事一覧

『眠りの航路』呉明益 倉本知明 訳

学生時代、御所の中を歩いていて、蛞蝓になって塀をのぼってゆく夢の話を聞いたことがある。なんでも、夢を見たら、自分の襟首をひっつかんで夢から引っぺがし、枕元においてある紙に、今見たばかりの夢を書き写すことを習慣にしているのだそうだ。せっかく…

『小説ムッソリーニ 世紀の落とし子』上・下 アントニオ・スクラーティ 栗原俊英 訳

<上下巻合わせての評です> これは、戦後イタリアではじめて真正面からファシズムを描いた小説である。では、今までなぜそれができなかったのか。それは、偏にムッソリーニという人物のキャラクターにある。ある種の能力に恵まれてはいても、等身大の彼はど…

『熊と踊れ』上・下 アンデシュ・ルースルンド /ステファン・トゥンベリ ヘレンハルメ美穂 /羽根由 訳

<上下二巻、併せての評です> 過去と現在の出来事が、交互に語られる。親子の物語であり、家族の物語であり、類い稀な犯罪小説でもある。人はなぜ理に合わない犯罪に走るのか。やむにやまれぬ強迫観念に突き動かされた行為の裏に隠された過去が、記憶の鍵を…

『カリフォルニアの炎』ドン・ウィンズロウ 東江一紀 訳

「火事があって、死者が出た」と電話。ジャック・ウェイドはカリフォルニア火災生命の火災査定人。現場にはすでにオレンジ郡保安局火災調査官が到着済み。「ウォトカと寝煙草」と得意の<失火>説を唱えるベントリー。元同僚だが、わけあって二人は互いを嫌…