青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2018-12-01から1ヶ月間の記事一覧

『淡い焔』ウラジーミル・ナボコフ

旧訳の『青白い炎』は筑摩書房世界文学全集で読んだことがある。例の三段組は読み難かったが、詩の部分は二段組で、上段に邦訳、下段に原文という形式は読み比べに都合がよかった。新訳は活字が大きく読みやすいが、英詩は巻末にまとめてあるので、註釈と照…

『カササギ殺人事件』アンソニー・ホロヴィッツ

1955年、田舎町に住む家政婦が鍵のかかった家の中で階段から落ちて死んでいるところが庭師によって発見される。不慮の事故のようだったが、その三日前、死者は息子に「死ねばいい」という意味の言葉を浴びせられていた。近くのパブで、その喧嘩を聞いた…

『不意撃ち』辻原登

五篇の短篇というには長い作品で構成された、いわば中篇集。辻原登は間口が広い。今回は時代的には現代に的を絞り、新聞や週刊誌に取り上げられた事件を物語にからませてリアルさを醸し出している。『不意撃ち』という表題作はない。突然、登場人物たちに降…

『帰れない山』パオロ・コニェッティ

体力に自信がないので、本格的な登山はしたことがない。ただ、山に対する憧憬はあり、旅をするときは信州方面に向かうことが多かった。落葉松林や樺の林の向こうに山の稜線が見えだすとなぜかうれしくなったものだ。子どもが生まれてからは八ヶ岳にある貸別…

『数字を一つ思い浮かべろ』ジョン・ヴァードン

デイヴ・ガーニーは四十七歳。いくつもの難事件を解決してきた超有名な刑事だが、今はニューヨーク警察を退職し、デラウェア近郊の牧草地に十九世紀に建てられた農館で暮らしている。事件解決以外に興味を持たない夫と二つ違いの妻マデリンとの間にはすき間…

『ブラック・スクリーム』ジェフリー・ディーヴァー

リンカーン・ライム、シリーズ第十三作。今回の相手はコンポーザー(作曲家)を名乗る犯罪者。特別に繊細な聴覚を持つが、統合失調症を病んでいる。脳内で音が異常に増殖する、ブラック・スクリームという症状が現れると、自分を制御できなくなる。チェロ用…