青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2010-12-01から1ヶ月間の記事一覧

『マイ・バック・ページ』−ある60年代の物語 川本三郎

おや、と思った。何だかいつもの川本三郎と感じがちがう。文章も生硬で余裕が感じられない。それに、60年代をテーマに謳っているのに出てくる話が暗いことばかりじゃないか。死者についての話も多い。それに何より「週刊朝日」や「朝日ジャーナル」記者と…

『話の終わり』 リディア・デイヴィス

作者自らが語るところによれば、この小説のテーマは「いなくなった男の話」だそうだ。主人公の「私」は、西海岸の町に住み、翻訳業で何とか食べている女性。巻末の著者略歴によれば、作者本人もフランス文学の翻訳者として知られる。作者自身と思われる「私…

『文豪の食卓』

グルメと言うにはほど遠いが、美味い物を食べるのはきらいな方ではない。どうせ食べるなら美味いにこしたことはないからだが、味覚というのは人それぞれで、あの店が美味いと聞いて訪ね、がっかりさせられることも多い。その点、食べものについて書かれた文…

バウドリーノ

『薔薇の名前』で一躍有名になったウンベルト・エーコの最新作。今回も舞台は同じ中世だが、異端審問最中の僧院に起きる連続殺人事件を描いた『薔薇の名前』の雰囲気を期待して読むと見事に裏切られる。神聖ローマ帝国とビザンツの両帝国を股にかけ、生まれ…