青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2019-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『ある一生』ローベルト・ゼーターラー

読ませようという気があるのか、と言いたくなるタイトル。原題が<Ein ganzes Leben>だから、直訳だ。すべてが、ここに集約されている。削りに削りまくった、飾り気とか色気とか、そういうものが一切ない、必要最小限度のもので成立している長篇小説。長さ…

『ヒッキーヒッキーシェイク』津原泰水

タイトルがどっかで聞いたことがあると思って口ずさんだら、曲調を覚えていた。カバー・イラストにあるのと同じ型のベースを持ったマッシュルーム・カットのポール・マッカートニーが『ヒッピー・ヒッピー・シェイク』と歌っていた。「ヒッキー」が引きこも…

『方形の円』ギョルゲ・ササルマン

古い地球儀の極の方に「テラ・インコグニタ」と記された土地がある。誰も足を踏み入れた者がいないため、地名は勿論、地勢も植生も何が棲んでいるのかも分からない、未知なる領域のことである。誰も知らない土地、世に忘れられた世界のことを書いたものには…

『私たち異者は』スティーヴン・ミルハウザー

スティーヴン・ミルハウザーの短篇集。ほぼ中篇といっていい表題作を含む七篇所収。これまでのミルハウザーの物語世界と地続きでありながら、どこか新味を感じさせる作品が揃っている。どれも粒よりであることはいうまでもない。どこまでも手を抜かず精緻に…

『七つの殺人に関する簡潔な記録』マーロン・ジェイムズ

おちょくってるのか。簡潔な記録だと。A5版七百ページ二段組。厚さ五センチ。重さ一キログラム超。まさに凶器レヴェル。放ったらかしにしてあった妻の実家の庭の草刈りをした後で手にしたら、手首が震えて床に落としそうになった。『JR』以来、厚手の本を読…

『夢見る帝国図書館』中島京子

題名に「図書館」と入ってるだけで、読んでみたくなる。その前に「帝国」とある。「大英帝国」のことかな、と考える。まだその上に「夢見る」とついている。ユメ子さん? シャンソン人形? 図書館はふつう夢を見ない。見ないだろう? いや、見るのか? まあ…

『回復する人間』ハン・ガン

周囲四キロに満たない小さな島で暮らしていたことがある。そこの子どもたちは年上の子の名前の下に兄(にい)や姉(ねえ)をつけて呼んでいた。初めは島中が親戚なのかと思っていたが、血縁とは関係なく、年長者への敬意を表すためのもので、大人の間でも親…

『終焉の日』ビクトル・デル・アルボル

病室のテレビは国会が襲撃されたクーデター事件を放送している。一九八一年のスペイン。弁護士のマリアは三十五歳。バルセロナの病院で死にかけている。複数の事件に関わっているらしく病室には監視がついている。事件は一応終っているのだが、逃亡中の容疑…