青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2019-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『カッコーの歌』フランシス・ハーディング

『嘘の木』の作者フランシス・ハーディングの二冊目の翻訳になる。翻訳の世界ではよくあることだが、本国ではこちらが先に出版されている。それで、評判になった作品を読んで、期待して次回作を読むとそれほどでもなかった、ということもある。さて、今回は…

『アンダーワールドUSA』上・下 ジェイムズ・エルロイ

<上・下二巻併せての評です> 現金輸送車襲撃事件から始まる。中に入っていたのは大量の現金とエメラルド。犯人の一人が裏切り、仲間の顔を焼いて身元を不明にするなど、計画的な犯行であることがわかる。ミステリなら犯人は誰で、金とエメラルドはどこに消…

『湯けむり行脚』池内紀

二月の声を聞き、寒さがひときわ厳しくなってきた。足もとは厚手の靴下の上からオーヴァーシューズ形のスリッパで固め、膝掛をかけ、キーボードを叩くため、指先だけは切り取った手袋をはいても、そこから出た指さきの凍りつくような冷たさだけはどうにもな…

『ミッテランの帽子』アントワーヌ・ローラン

80年代のパリを舞台にとった、往年のフランス映画を見ているような、小粋で洒落たコントになっている。近頃の小説は、どこの国のものを読んでも大差がなく、深刻で悲劇的、ネガティヴな印象を持つものが多い。時代が時代なので仕方がないこととは思うが、…

『償いの雪が降る』アレン・エスケンス

原題は<The Life We Bury>.。「私たちが葬る人生」とでもいうような意味で、こちらの方が中身に似つかわしい。というのも、主人公で探偵役をつとめるジョーも、彼が伝記を書こうとしている末期癌を患っている死刑囚カールも、ともに人には言えない過去を自…