青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『指差す標識の事例』上・下 イーアン・ペアーズ 池 央耿 東江一紀 宮脇孝雄 日暮雅通 訳

<上・下巻併せての評です> 時は一六六三年三月。王政復古から三年がたち、イングランドは落ち着きを取り戻しつつあった。ヴェネツィアの貿易商の息子でライデン留学中のマルコ・ダ・コーラは、家業に持ち上がった騒動の対策のため、英国に到着した。ところ…

『言語の七番目の機能』ローラン・ビネ 高橋啓訳

評を書くときには、読者がその本を読む気になるかどうかを決める際の利便を考慮し、どんなジャンルの本かをまず初めに伝えるようにしているのだが、本書についてはどう紹介したらいいのか正直なところ悩ましい。シャーロック・ホームズ張りの推理力を発揮す…

『これは小説ではない』デイヴィッド・マークソン 木原善彦訳

シュルレアリスムの画家、ルネ・マグリットの画に「これはパイプではない」というのがある。紛れもなくパイプを描いた絵の下に、「これはパイプではない」と書かれているところに面白みがあるのだが、書かれていることはまちがっていない。『ウィトゲンシュ…

『アウグストゥス』ジョン・ウィリアムズ 布施由紀子訳

ジョン・ウィリアムズは長篇小説を四冊書いているが、一作目は自己の設けた基準に達しておらず、自作にカウントしていない。二作目が『ブッチャーズ・クロッシング』。三作目が第一回翻訳小説大賞読者賞を受賞した『ストーナー』。『アウグストゥス』は、そ…