青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』川本直

ナボコフの『セバスチャン・ナイトの真実の生涯』から借りた表題からも分かるように、世に知られた著名人の人生をよく知る語り手が、本当の姿を暴露するというのが主題だ。それでは、ジュリアン・バトラーというのは誰か。アメリカの文学界で、男性の同性愛…

『獄中シェイクスピア劇団』マーガレット・アトウッド 鴻巣友季子 訳

劇場で見たことはないが、ピーター・グリーナウェイ監督、ジョン・ギールグッド主演の『プロスペローの本』という映画を観たことがある。『テンペスト』は復讐劇。魔法を究めることに執心し、政務を疎かにしたことにより、弟に大公位を簒奪され、三歳の娘ミ…

『歓喜の島』ドン・ウィンズロウ 後藤由希子 訳

ウォルター・ウィザーズは元諜報員。CIAの人材調達係として、スウェーデンで働いてきた。旧家の出で、そつがなく人の気を逸らさない。控え目で自分の分の勘定は自分で持つので、誰からも好かれている。美男だが押しの強さはない、俳優で言えばレスリー・ハワ…

『パールストリートのクレイジー女たち』トレヴェニアン 江國香織 訳

「一九三六年、僕は六歳だった。妹は三歳、母は二十七歳で、僕たちは新しい生活を始めようとしていた」。ところはニューヨーク州オールバニー。ニューヨークといえば聞こえはいいが、パールストリートはアイルランド系の貧民が暮らすスラムだ。家族を捨てて…