青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2013-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『スクールボーイ閣下』ジョン・ル・カレ

村上春樹が「ぼくは三度読んで、そのたびに興奮した」と絶賛し、ル・カレの最高傑作としたのが本作『スクールボーイ閣下』(原題“ The Honourable Schoolboy ”)だ。前作『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』に継ぐスマイリー長篇三部作の第二作。…

『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』ジョン・ル・カレ

二度読んだ。結果から言えば、ここは、と思わせる部分がないこともないが、全体的にはさほど読みづらさは感じなかった。読みづらさを感じる原因は、フラッシュバックを駆使した回想視点の導入による時制の交錯や、複数の視点人物の瞬時の転換といった原作者…

『春の祭典』アレホ・カルペンティエール

「彼らを見なよ。企業の国営化に対抗して、ヤンキーたちがこれから輸出規制を強化することを知っていながら、彼らは歌っている。この国の食料品店は空っぽになるだろうし、車は交換部品や燃料の不足から止まってしまうだろう。歯ブラシ一本、タイプライター…

『石蹴り遊び』フリオ・コルタサル

幻想的な短編小説の名手フリオ・コルタサルの筆になる、あまりにも有名な長篇小説。何がそんなに有名なのかは後で説明するとして、まずはざっとあらすじを述べる。主人公は、作家自身をいやでも思い浮かべてしまうブエノスアイレス出身で、パリでボヘミアン…

『翻訳に遊ぶ』木村榮一

ラテン・アメリカ文学にはまっている。一昔前にもなろうか、ラテン・アメリカ文学のブームが起きた。何事によらず、ブームとか流行とかには縁がなく、ほとぼりが冷めて人々が熱気を失いはじめたころになって興味を覚える天邪鬼な性行があり、今頃になって絶…

『キャンバス』サンティアーゴ・パハーレス

井伏鱒二が、自作の『山椒魚』を自選集に収めるに際し、結末部分をばっさり削除してしまった事件を思い出した。教科書にも載っている有名な作品を、いくら作者であっても勝手に改編することが許されるのか、暴挙ではないか、というのが批判する側の論拠であ…