青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2018-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『さらば、シェヘラザード』ドナルド・E・ウェストレイク

帯の惹句に「半自伝的実験小説」だとか「私小説にしてメタメタフィクション!」だとかいう文句が躍っているが、スランプに陥った小説家が何とかしてページ数をかせぐための苦肉の策じゃないか。しかも、ネタは自分の旧作からの引き写しだし。これが新作だっ…

『オールドレンズの神のもとで』堀江敏幸

三部構成で十八篇、第一部は、地方の町に暮らす市井の人の身辺小説めいた地味めな作品が並ぶ。第二部には一篇だけ外国を舞台にした作品がまじっているが、日本を舞台にしたものは一部とそう大きくは変わらない。ただ、少しずつ物語的な要素が強くなっている…

『戦時の音楽』レベッカ・マカーイ

ごくごく短い掌篇から、かなり読み応えのある長さのものまでいろいろ取り揃えた十七篇の短篇集。ニュー・ヨークの高層ビルの一部屋に置かれたピアノから突然バッハ本人が出てくるという突拍子もない奇想から、旱魃の最中に死んでしまったサーカス団の象の死…

『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年』J・D・サリンジャー

J・D・サリンジャーが雑誌に発表したままで、単行本化されていない九篇を一冊にまとめた中短篇集である。下に作品名を挙げる。 「マディソン・アヴェニューのはずれでのささいな抵抗」「ぼくはちょっとおかしい」「最後の休暇の最後の日」「フランスにて」「…

『十三の物語』スティーヴン・ミルハウザー

ミルハウザーらしさに溢れた短篇集。<オープニング漫画><消滅芸><ありえない建築><異端の歴史>の四部構成になっており、<オープニング漫画>は「猫と鼠」一篇だけ。後の三部は各四篇で構成されている。「トムとジェリー」を想像させる猫と鼠の、本…

『贋作』ドミニク・スミス

一枚の絵がある。十七世紀初頭のオランダ絵画だが、フェルメールでもレンブラントでもない。画家の名前はサラ・デ・フォス。当時としてはめずらしい女性の画家である。個人蔵で持ち主はマーティ・デ・グルート。アッパー・イーストに建つ十四階建てのビルの…

『奥のほそ道』リチャード・フラナガン

主人公はドリゴ・エヴァンス。七十七歳、職業医師、オーストラリア人。第二次世界大戦に軍医として出征し、捕虜となるも生還して英雄となり、テレビその他で顔が売れ、今は地元の名士である。既婚、子ども二人。医師仲間の妻と不倫中。他人はどうあれ、ある…