青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2017-06-01から1ヶ月間の記事一覧

『私の名前はルーシー・バートン』エリザベス・ストラウト

くせになりそうな作家だと思う。自室に独りでいる自分の傍らに来て、低い声でぼつぼつと語りかけられているような、よほど親密な仲なら構わないが、そうでもない場合にはちょっと距離を置いた方がいいのではないか、と思わせるような、内心に秘かに隠されて…

『運命の日』上・下 デニス・ルヘイン

(上下巻併せての評)1910年代末のアメリカは揺れていた。1917年に起きたロシア革命を受けて、東海岸では社会主義者、共産主義者、アナーキストたちが盛んに活動し、テロ活動も頻繁に起きていた。同じころ、第一次世界大戦の帰還兵が持ち込んだスペ…

『あなたはひとりぼっちじゃない』アダム・ヘイズリット

原題は<You Are Not a Stranger Here>。「異邦人」や「よそ者」を意味するストレンジャーよりも、「ここで」を意味する<here>が気になる。その「ここ」とはどこだろう。それは、この短篇集の中なのではないだろうか。ここには、現代アメリカやイギリスだ…

『ときどき旅に出るカフェ』近藤史恵

カフェ・ルーズは毎月一日から八日が休み。営業は九日から月末まで。店主はその間旅に出る。そして買ってきたものや見つけたおいしいものをカフェで出す。オーストリアの炭酸飲料だとかハンガリーのロシア風チーズケーキとかだ。もちろん毎月海外という訳で…

『ザ・ドロップ』デニス・ルヘイン

はじまりは犬だった。映画『ティファニーで朝食を』のように、ごみ箱から助け出されるのが猫だったらもっとよかったのにと思ったけど、頭のイカレた男に殴られても死ななかったのは、ピットブルだったからで、猫だったら死んでいただろう。そう考えると、犬…

『中動態の世界』國分功一郎

この本は、ハイデッガーやアレントはもとより、デリダにラカン、フーコーにドゥルーズ、と有名どころを次々と繰り出しては、能動と受動という二つの対立以前に在った「中動態」という態の存在をあぶりだすことを目的として書かれている。聞きなれない名前だ…