青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2020-09-01から1ヶ月間の記事一覧

『狼の領域』C・J・ボックス 野口百合子訳

やはり、ジョー・ピケットは容易に人の入り込めない深い山中にいるのが何よりも似つかわしい。普通の場所では、この男の魅力は引き立たない。今回はワイオミング州南部のシエラマドレ山脈が舞台。その頃、ボウ・ハンターが射止めた獲物のところに駆けつける…

『沈黙の森』C・J・ボックス 野口百合子訳

ジョー・ピケットは最近、このワイオミング州トゥエルブ・スリープ郡の猟区管理官になったばかりだ。かつて許可なく釣りをしたということで、州知事に違反切符を切ったことで有名な男だ。ライフルの命中率は高いが、拳銃はからっきしダメで、おまけに常時携…

『鷹の王』C・J・ボックス 野口百合子訳

ワイオミング州の猟区管理官ジョー・ピケットを主人公とするシリーズのいわばスピン・オフ。もちろんジョーも活躍するが、この作品の主人公はジョーではない。シリーズの多くの作品で主人公を助ける強力な相棒、ネイト・ロマノウスキが真の主人公だ。元特殊…

『ラスト・ストーリーズ』ウィリアム・トレヴァー 栩木伸明訳

ウィリアム・トレヴァーの絶筆「ミセス・クラスソープ」を含む、文字通り最後の短篇集。トレヴァーのファンなら誰でもすぐに手に取って読もうとするはずだから、こんな駄文を弄する必要もない。だからといって、初めての読者にぜひ読んでほしいと勧めようと…

『賢者たちの街』エイモア・トールズ

『モスクワの伯爵』で、とんでもない逸材を引き当てたと思ったエイモア・トールズの、これが長編デビュー作。一九二〇年代から一九五〇年代のロシアを舞台にしたのが『モスクワの伯爵』なら、これは一九三七年のアメリカ、ニューヨークが舞台。まるでタイム…

『死んだレモン』フィン・ベル

原題は<Dead Lemons>だから、邦題はほぼ直訳。辞書で引くと<lemon>には「できそこない、欠陥品」の意味がある。色と香りは抜群なのに、かじると酸っぱいからだろうか。レモンにしてみれば、とんだ言いがかりだ。<dead>には「まるっきり、すっかり」の…