青玉楼主人日録

仮想の古書店「青玉楼」の店主が、日々の雑感や手に入った新刊、古書の感想をつづります。

2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『ユドルフォ城の怪奇』上・下 アン・ラドクリフ 三馬志伸 訳

《上・下巻合わせての評です》 待つこと久しというが、これほど長く待たされると、待っていたことさえ忘れてしまう。本棚から手持ちの本を取り出して奥付を調べてみた。平井呈一訳の思潮社版『おとらんと城綺譚』が出たのが一九七二年、矢野目源一訳の牧神社…

『リカルド・レイスの死の年』ジョゼ・サラマーゴ 岡村多希子 訳

存在したこともない人についてこんなふうに語るのはばかげていると言われたら、僕は答える。リスボンや、書いているこの僕や、その他どんなものも、どこかしらにかつて存在していたことを証明できるわけではない、と。――フェルナンド・ぺソア ポルトガルを代…

『修道院回想録』ジョゼ・サラマーゴ 谷口伊兵衛/ジョバンニ・ピアッザ訳

一七一三年、ポルトガル王ジョアン五世は、首都リスボンの西、マフラの地に宮殿、修道院、大聖堂からなる壮大な伽藍を建設しはじめる。事の始まりは、修道院を建てれば世継ぎが生まれるという、一フランシスコ会士の言葉だった。予言通り王妃が懐妊すると、…

『白の闇』ジョゼ・サラマーゴ 雨沢 泰 訳

コロナ禍で、多くの人がパンデミック小説の存在に気づいたらしく、カミュの『ペスト』が話題となったが、この小説も二十年ぶりに文庫化され、重版もかかったようだ。未知の感染症の恐怖を描いたものだが、死に至る病ではない。他にどこも悪くならず、目だけ…